Chapter 03 CREATION
脱炭素社会実現と
新たな社会の価値創造
大阪・関西万博での取り組みをはじめ、大林グループが脱炭素社会実現とともに進める
新しい価値創造の数々をご覧いただけます。
大林組×
伝統建築・
ヘリテージ
- 遺したいのは
建物が持つ人と街の
「ものがたり」 - なぜ歴史ある建築物に惹かれるのか。それは、長い時間の中で人や街の物語を宿してきたからです。大林組は「様式の継承」と「記憶の継承」という2つの視点から歴史的建築物の保存・再生に取り組んでいます。例えば、岩手県の世界遺産「平泉」にある「中尊寺本堂」では平安時代から引き継がれてきた姿を守り、京都祇園の「弥栄会館」では街の記憶をつなぐ場として再生。こうしたさまざまなプロジェクトで培った知見を大林組の全体知として共有し、建物を遺す=物語を未来へとつなぐ。それが私たち大林組の使命だと考えています。

中尊寺
平安時代から続く歴史を
“変わらぬ姿”で未来へつなぐ。


中尊寺本堂の耐震補強工事で最も大切にしたのは、「明治に再建された平安様式の姿をそのまま残す」ことでした。外観はもちろん、内部の使い勝手も変えない。その制約の中で最高の耐震性能を実現すべく幾度も検討を重ね、伝統と技術の融合に挑みました。世界遺産という人類の宝を守る責任と誇りを胸に、大林組の独自技術で耐震性能を向上させるとともに、意匠の自由性も両立する付加価値の高い技術を提供します。この歴史ある建物が、これからも変わらぬ姿で人々を迎え、千年先へと物語を紡いでいくことを願っています。
大林組
営業総本部 伝統建築・ヘリテージプロジェクト・
チーム
担当部長
山﨑 慎二
Architecture
現代の技術で様式を継ぐ “光勝院 新築”

- 新たな仏堂と客殿の新築
- 中尊寺本堂境内で、仏堂(光勝院)を再興するとともに、国内外からの賓客を招く客殿(講堂)を新築。境内に調和する形態や柱穴遺構などの遺構保存が求められ、また急斜面の上部の限られた敷地を最大限に活かす計画を実施しました。
- 格式と現代的な機能の両立
- 白木を用いた伝統的な構成とし、内外部ともに品格と力強さを備えた御堂空間。既存本堂と同じレベルの渡り廊下で道場、広間などを接続し、わかりやすく使いやすい施設構成としました。バリアフリー環境を充実させ、優しいぬくもりのある素材を利用。また、上階は鉄骨造にすることで、大スパンの使いやすい無柱空間としています。

- 平安様式の継承
- 中尊寺のある一帯は歴史的景観地区に指定されているため、周辺との調和が求められています。そこで、建物の形状は中尊寺建立の平安時代の仏堂様式を基とし、伝統的な屋根で構成することで歴史的景観を保っています。


崖上に張り出すキャンティレバーの2階床に載る客殿(手前)と仏堂(奥)

客殿の断面図

PC鋼線によるアンボンド工法の片持ちスラブ施工の様子
- 崖と遺跡のある敷地に建てた、
“現代の懸け造り” - かつて建っていた旧客殿と宿坊の外郭線の中に新しい1階平面を収めることで、掘削範囲を最小限にとどめ、遺跡を乱さずにRC造で躯体を構築。その上に、崖から大きく張り出したコンクリート床を片持ちとして2階平面を広げました。この“現代の懸け造り”の上に、鉄骨造+伝統様式意匠の仏堂と客殿を建設しました。
- 独自の技術で様式を守る “本堂 耐震改修”
- 中尊寺本堂は1909年に再建・建立された、漆喰塗りの土壁を主な耐震要素とする伝統木造建築物です。2011年6月の世界遺産登録の直前に発生した東日本大震災により土壁の損傷などが生じました。「創建当時の姿を残す。外観・使い勝手を変えない」という中尊寺の強い要望に応え、大林組が開発した当時の最新技術である「スーパー板壁」を用いて耐震改修を実施。壁倍率10倍を超える高耐力壁であり、表面に漆喰塗り仕上げを行うことが可能なため、外観・内観ともに以前のイメージを変えることなく美観性・機能性を保持しました。
所在 | 岩手県 |
---|---|
発注者 | 宗教法人中尊寺 |
概要 | 鉄骨造 一部鉄骨鉄筋コンクリート造、 鉄筋コンクリート造 地上2階 延面積1,616m² |
設計 | 大林組 |
竣工 | 2019年10月 |
(仮称) 弥栄会館計画 (帝国ホテル 京都)
劇場からホテルへ
“街の記憶”をそのシルエットと
ともに未来につないでいく。


「弥栄会館」は、長らく京都・祇園のシンボルとして親しまれてきた劇場です。耐震性の課題が確認されて以来、扉は閉ざされてきましたが、2026年春、この貴重な地域のレガシーが「帝国ホテル 京都」として生まれ変わります。弥栄会館の再生に際して、大林組が提案したのは、通りから見える外壁2面と構造体を残しながら増改築し、建物のシルエットと親しまれてきた風景を継承することでした。外観を残しながら、現行の建築基準法に準拠した構造で再生させることは容易ではありません。それでも挑戦したのは、建物に残る人々の思い出と歴史を、未来につなげることが必然と考えているからです。
大林組 設計本部 担任副本部長/
営業総本部
伝統建築・ヘリテージプロジェクト・チーム リーダー
井上 雅祐
Heritage
挑戦 “残す解体”と“生け捕り”

建物高さが12mまでと定められている高度地区

解体の工程に応じて鉄骨にて既存外壁を補強
弥栄会館が建つ場所は、建物の高さ制限が厳しい地域。通常であれば弥栄会館と同じ高さで建てることはできません。しかし、祇園のシンボルであり歴史的価値と風景を継承する前提で京都市景観政策課、美観風致審議会、景観審査会と協議を重ねた結果、建物のシルエットを守り、伝統的な町並みと調和するデザインとすることで高さの特例許可が認められ、南と西の外壁を躯体と共に残すことになりました。
解体では、壁のみの不安定な形で残される既存躯体は、工事中に地震などで大きな力が加わると倒壊する恐れがあります。そこで、解体工事の計画段階から工事計画チームに構造設計が参画する、異例のプロジェクトとなりました。
また、外装のタイルは一度はがして『生け捕り』し再利用する、状態の良いタイルやテラコッタレリーフはピンで留めて剥落防止するなど、数多くの技術的な試行錯誤を重ねながら進めました。一方、解体を進めていくと、残されている図面と一致せず、躯体の寸法や配筋の位置が異なることも。その都度現地を調査しては設計をやり直し、確認申請の取り直しを実施。同規模の建物解体、新築と比較すると何倍もの期間、労力がかかっています。しかし、こうした経験こそが、今後さらに増えていく伝統建築・ヘリテージの保存・再生への取り組みを支えるものだと信じています。

外壁タイル10万枚超を生け捕り選別し約10%を再利用


状態の良いテラコッタレリーフはピンで留めて剥落を防止
“挑戦” さまざまな遺し方
「何を残し、何を変えるのか」。時代とともに建物の保存・再生の在り方も変化してきました。大林組は数多くの知見と技術によって、価値ある建物を後世に引き継いでいきます。
Architecture
Living Heritage
外壁保存の先駆け 中京郵便局

-
レンガ外壁アンカーボルト打設状況
-
保存する外壁を仮設鉄骨架構で支持
-
保存エディキュラ※と窓口ロビー
※エディキュラ : 建築物の壁面に立体的に造形された祭壇状の部分
-
仮設鉄骨架構と施工中の新外壁
- レンガ外壁を残し新庁舎を建設
- 1902年築のルネッサンス様式、2階建、レンガ造の名建築です。そのレンガ外壁を保存し、郵便局業務の諸機能を果たす新館と一体化する工事が1976年3月にスタート。壁の自立は困難でレンガ外壁だけを残しての解体は不可能でした。そこで工事中に壁が倒壊しないように、レンガ壁内側にOWS壁と連続柱列杭を基礎とする仮設鉄骨架構を組み、レンガ壁とボルトで緊結する方法を採用。これにより内部を全部解体し、レンガ壁を型枠とした新しい鉄筋コンクリート壁を内側につくり、レンガ壁内側にエポキシ樹脂で固定されたアンカー鉄筋で緊結した後、仮設鉄骨を解体。結果、外壁を残しつつ、建物の内部は全て解体して新庁舎を構築する工事を1978年3月に完了させました。
所在 | 京都市中京区 |
---|---|
発注者 | 郵政省 |
概要 | 鉄筋コンクリート造(補強部分) 地上3階(地下1階建) 延面積9,700㎡ |
改修設計 | 郵政大臣官房建築部 |
竣工 | 1978年3月 |
日本初のレンガ造免震改修 立教学院諸聖徒礼拝堂


- 歴史が息づくレンガ建築
- 1874年の創立以来、建学の精神でもある「キリスト教に基づく人間教育」に注力してきた立教学院。2000年に創立125周年記念事業として池袋キャンパスの再開発が行われました。キャンパス内には、礼拝堂・図書館・本館など赤レンガ造の建物がありますが、大林組は、これら建築群のうち、同学院のシンボル的建物であり「東京都選定歴史的建造物」にも指定されている礼拝堂の耐震改修工事を行いました。
新築同等の免震性能を付加


-
根切
-
礎版鉄筋組み
-
積層ゴム部完成
免震工事では、レンガ造の建物としては国内初となる「免震レトロフィット工法」を適用。既存の建物に免震装置を設置し、地震で受ける影響力を低減させるもので、その効果は新築の免震ビルに引けをとりません。建物全体を持ち上げ、その下に免震装置を取り付けるため、工事中も建物内部が使用できます。外観・内観ともにほとんど形状を変えることなく工事が行えることから、歴史的な建造物や建て替えが難しい建物の耐震補強に最適な工法と言えます。
所在 | 東京都豊島区 |
---|---|
発注者 | 学校法人 立教学院 |
概要 | 鉄筋コンクリート造(補強部分) 地上1階(一部3階建) 延面積505㎡ |
改修設計 | 日建設計 |
竣工 | 1999年2月 |
近代の名建築を独自技術で守る 大阪倶楽部

現在の外観

竣工当時の外観

改修後の談話室

竣工当時の談話室
- 大正時代の社交の場「大阪倶楽部」
- 「集う」をコンセプトに設立された大阪倶楽部。社交倶楽部にとっては会館が活動の中心の場。日本銀行大阪支店の跡地に、設立後僅か2年で初代会館が1914年9月に竣工しました。ところが、1922年に出火焼失。会館失くして倶楽部はあり得ません。倶楽部の社員たちは一日も早い再建を目指しました。設計は安井武雄氏(安井建築設計事務所 創立者)が担当。南欧風様式に東洋風様式を随所に配し、後に安井武雄の「自由様式」の代表作に。竣工は1924年。焼失から僅か22カ月で完成しました。(大阪倶楽部HP参照)
- 「3Qダイアキャスト」による耐震補強
- 耐震補強は長年の懸案事項でした。元施工者として長く携わっている大林組が、2017年に「静かに、早く、高品質」を特徴とした鋳鉄製ブロック「3Qダイアキャスト」を開発したのを契機に補強工事を実施。耐震診断の結果、耐震性が不足している談話室がある2階部分のみを補強しました。鋳鉄製の耐震部材「3Qダイアキャスト」は部屋の雰囲気と開放感を損なうことなく、施工性も良く、周囲への工事の影響を抑えながら、ブロック積み自体は1ヵ所1週間で完了しました。ブロック単体の壁厚は90mmですが、RC壁180mm相当の耐力を負担可能。四角形と三角形のブロックを組み合わせて壁を構成します。

所在 | 大阪府大阪市中央区 |
---|---|
発注者 | 大阪倶楽部 |
概要 | 鉄筋コンクリート造 地下1階、地上4階 延面積3,442㎡ |
耐震補強設計 | 大林組 |
竣工 | 2017年10月 |
大林組×
スタジアム・
アリーナづくり
熱狂を生み出し、人々をつなぐ、
「街のコア」をつくる。
大林組は、単なるスポーツ施設ではなく、「熱狂」を生み出し、「街のコア」となる空間を創造してきました。1924年の甲子園球場建設から続くその知見は、今日の最先端施設にも活かされています。近年では、「エスコンフィールドHOKKAIDO」で地域と連携し、新たなボールパークの在り方を提案。また、「ジーライオンアリーナ神戸」では、都心臨海部の活性化に貢献する多機能アリーナを実現しました。これらのプロジェクトに共通するのは、単に施設をつくるのではなく、そこで生まれる体験や街とのつながりを重視している点です。私たちは、長年培ってきた技術力と、常に新しい価値を創造しようとする情熱をもって、これからもスポーツの未来に貢献していきます。
大林組
設計本部建築設計部 課長
岩岡 丈夫

受け継がれ続ける 「熱狂をつくる」 DNA







フィールドと一体になる
至高の観戦体験を実現

- どこからでも観戦できる
360度回遊型コンコース - コンコースを球場内のどこからでも試合を観戦できる開放的な空間にすることで、好きな場所で好きなことを楽しみながら、試合の臨場感を味わうことを可能にしました。このコンコースは、単なる移動空間ではなく、観客の熱狂を球場全体で共有し、一体感を醸成するポイントの一つです。


- 球場を核としたまちづくりを
めざして - エスコンフィールドHOKKAIDOもその一部である「北海道ボールパークFビレッジ」は、単なる野球観戦施設を超えた"共同創造空間"。ファン、企業、地域住民が一体となり、社会貢献と地域活性化をめざします。野球のホームゲームは年間80試合ほどですが、野球開催日以外も賑わい、国籍、年齢、性別に寄らず、誰もが集える創造的なコミュニティスペースとなっており、球場を核とした街づくりを実現しました。
- フィールドが近い「すり鉢状」の
座席 - 圧倒的な臨場感を生み出すため、どの座席からもフィールドを見下ろしやすく、観客席とフィールドの一体感を高めるすり鉢状の構造を採用。フィールドとの距離感を縮めることで、観客は選手たちの息遣いまでも感じ、試合に没入することができます。この構造は、単なる観戦空間を超え、感動を共有する場としてのスタジアムを実現する上で、重要な要素だと考えています。

神戸の発展を支えた突堤を
再び街の賑わい拠点へ


- 神戸の発展を支えてきた「突堤」に新たな歴史を
- 港都神戸の歴史に新たなページを刻む街のシンボル「ジーライオンアリーナ神戸」。かつて船着き場として活用されていた突堤は、新たな賑わいと交流を生み出すエリアとして生まれ変わりました。このアリーナはウォーターフロントエリアの賑わいの拠点として、神戸の発展を支えてきた歴史と、未来への希望をつなぐ存在として、街の発展に貢献していきます。
- 臨場感のあふれるボウル形状
- 関西圏では数少ない1万人超規模の最先端アリーナとして、スポーツだけでなく、ライブや講演会など、多彩なイベントに対応できるよう馬蹄型の座席配置を採用。どの座席からもステージやコートが見やすく、臨場感あふれる体験をお届けできます。

こけら落としイベント「ケントモリ “DREAM DANCE LIVE” in GLION ARENA KOBE」の様子 Ⓒ神戸新聞社


ZEB Ready:ZEB(年間の一次エネルギー消費量が正味ゼロまたはマイナスの建築物)を見据えた先進建築物として、外皮の高断熱化及び高効率な省エネルギー設備を備えた建築物
- 大規模アリーナ国内初
「ZEB Ready」認証を取得 - 「ZEB Ready」認証の取得、それは、ジーライオンアリーナ神戸の省エネルギー性能の高さを示しています。「神戸から感動と興奮を発信し、世界へ羽ばたく姿」を表現したV字型の特徴的な屋根形状は、アリーナの気積を座席形状に合わせて最適化し、空調負荷を低減することに寄与しています。
大林組× 新領域ビジネス
建設の枠を超え、
新たな「つくる」を加速させる。
「MAKE BEYOND つくるを拓く」。新領域ビジネス事業は、まさに建設の枠を超えた領域へ挑戦する大林組のブランドビジョンを体現するものです。私たちがめざすのは「新たな顧客価値の実現」と「社会課題解決型ビジネスの創出」。つまり、新たな価値を社会に実装されるビジネスモデルとともに届けるということ。そんな考えから、2022年に「PLiBOT」、2023年に「Oprizon」、2024年には「MiTASUN」という新会社が誕生。そして現在も30を超えるプロジェクトが進行しており、これからも既存事業とのシナジーによって、さまざまな価値を届けていきます。建設だけではない私たち大林組の挑戦に、ぜひご注目ください。
大林組
ビジネスイノベーション推進室長
堀井 環

Businesses
Initiatives


- “眠れるビル”を“都市インフラ”へ
大林組のデータセンター(DC)事業 - 建設をはじめ多様な事業領域で培った強みを活かし、都市部の遊休ビルを小規模DCに改修または建て替え。複数拠点を専用回線で接続し、大規模DCと同等の機能を持つ都市型DC群を構築します。
-
都市型DC群の
構築イメージ Urban DC Cluster
Construction -
-
- STEP 1
- 拠点を供給
-
- STEP 2
- 1拠点追加するごとに
DCネットワークが強化
-
- STEP 3
- 他事業者とアライアンスを
組み相互接続を行う
-
- 解決する課題 What We will Resolve
-
-
- 通信コスト
- 東京都心の立地優位性が
通信コストの削減へ
-
- 低遅延
- 大容量データに適した
通信速度と接続安定性
-
- アクセス利便性
- 障害発生時の迅速な対応に
つながる利便性の高さ
-
大林組× 万博
History 万博の先に描く豊かな未来
「万国博覧会」、それは世界の課題を解決するための叡智を結集する場。大林組は約120年前から様々な博覧会に携わり、常により良い未来を描き、そして実現に挑戦してきました。
-
1903
第5回内国勧業博覧会 会場施設工事のほとんどを大林組が請け負い、高さ45mの展望台「大林高塔」は当時めずらしかったエレベーター付き建築として注目されました。
-
1970
日本万国博覧会(大阪万博) 会場の造成や周辺道路整備をはじめ、17のパビリオンを施工。国や企業が思い描く21世紀の暮らしを、最新の建設技術を用いて具現化しました。
-
1975
沖縄国際海洋博覧会
-
1985
国際科学技術博覧会 (科学万博つくば)
-
1990
国際花と緑の博覧会(大阪花博)
-
2005
日本国際博覧会(愛・地球博)
-
2010
上海万国博覧会
-
2021
ドバイ万国博覧会 大林組が手がけた白いファサードが特徴的な日本館。このファサードは、大阪・関西万博 ウーマンズ パビリオンにリユースされています。
EXPO 1970
- 日本万国博覧会(大阪万博)
- 「人類の進歩と調和」をテーマに、アジアで初めて開催された万博。日本の戦後復興と技術力の高さを世界に示すとともに、経済の成長がもたらすさまざまな社会問題に目が向けられるきっかけにもなりました。大林組は大規模現場の工事を迅速・的確に進めるために特別な管理体制を構築。限られた時間の中で17ものパビリオンを手がけました。また、「太陽の塔」を囲う8,000tもの大重量の大屋根を、当時の最先端技術「リフトアップ工法」を駆使して施工。後にこの工法は大規模・高層建築工事の主要技術へと発展しました。

EXPO 2025
- 2025年日本国際博覧会
(大阪・関西万博) - 人々の価値観や生き方がますます多様化する現代。大阪・関西万博は、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、一人ひとりが自らの望む生き方を考え、それぞれの可能性を最大限に発揮できる持続可能な社会を、世界が共創していくことをめざしています。「いかに進歩するか」から、「いかに幸福に生きるか」、そして「そのためのサステナブルな社会をどう実現するか」。大林組は、それらを意識しながら、さまざまなパートナーと協働して関連施設の建設に取り組みました。

大屋根リング
大阪・関西万博のシンボルであり世界最大級の木造建築物。会場デザインプロデューサー、建築家の藤本壮介氏によるデザインで「多様でありながら、ひとつ」という本万博の理念を表しています。


柱に開けた穴に横架材を通して固定する「貫接合」
- 「つくりやすく・リユースしやすい」構造
- 大屋根リングの建設には、京都・清水寺の本堂から張り出した「舞台」に見られるような伝統的な貫(ぬき)接合に、現代の工法を加えて剛性を高めています。一般的な貫接合の場合、接合部の隙間に木の楔(くさび)を差し込んで固定しますが、地震や強風などで楔の抜けや貫のめり込みが生じると、建物が大きく変形し、場合によっては倒壊する恐れもあります。そこで、現代の工法で剛性を高めて耐震基準を満たすべく、柱の仕口の上下に鋼板を配置。長さを調節できるラグスクリューボルトを突っ張らせることで、接合部全体を圧着させる工夫を施しました。高い強度が必要とされる箇所には、接合部における横架材の側面を鋼板で補強した「高耐力タイプ」も併用。一方で、強度要求の低い部位には「低剛性タイプ」を用いるなど、場所に応じて最適な仕様を選択しました。また、大屋根リングは、万博閉幕後、構造体を解体、再利用される予定。そこで、実物大のモックアップの組み立て・解体の実験を行い、構造体をきれいな状態で解体する方法の検証を行いました。

一般的な貫(ぬき)接合では、柱の穴に貫を貫通(かんつう)し、楔(くさび)を打ち込んで圧着します。梁側のめり込みに対して弱くなる傾向があります


今回改良した貫接合では、施工性の向上、性能確保のため、楔(くさび)形状を工夫。ナットとボルトを利用することで梁側のめり込みによる耐力と剛性を向上させました
低剛性タイプの内部

標準タイプの内部

高耐力タイプの内部

3つのタイプを用意し、大屋根リングの数種類のユニットに対応
- 日本の林業再生に貢献、施工性・安全性にも配慮
- 大林組工区では、柱材の約50%に四国産のヒノキ、梁材に福島産のスギを使用しています。それらは、福島県・浪江町にある国内最先端の集成材生産工場で製造・加工されました。また、一部が来場者の歩ける通路となる屋根面には木組みの架構に厚さ9cmのCLT(直交集成板)を採用。これらは、大林グループのサイプレス・スナダヤが保有する日本最大級のCLT生産設備にて製造したものです。高さが約20mに達するリング外周部は、ユニットを地組みしてクレーンで揚重し、上部ユニットと下部ユニットを接合し組み上げていきました。揚重する前の段階でCLTに通路のフェンスを取り付け、またビスを所定の位置へ仮留めすることで高所作業を軽減。電動工具でビスを打ち込んでいくだけで作業が完了するようにして省力化も図りました。
大屋根リングの木材使用量(大林組工区)
集成材(ヒノキ、オウシュウアカマツ、スギ)
約6,500㎥ 柱・梁・桁に使用
CLT(ヒノキ、スギ)
約1,800㎥ 床

CLT

サイプレス・スナダヤでは日本最大サイズである3m×12mのCLTを製造
ウーマンズ パビリオン in collaboration with Cartier
内閣府、経済産業省、カルティエ、2025年日本国際博覧会協会が連携・協力して出展するパビリオン。ジェンダーを問わず人々が真の平等のうちに共存し、互いに尊重し合い、誰もが自分の可能性を最大限に発揮できる世界をめざし、女性たちの体験や視点を通じ、来場者に公平で持続可能な未来を志すことを呼びかけます。環境に配慮した建設も特徴です。

Victor Picon ©Cartier
- ドバイから大阪へ、ファサードの継承
- ドバイ万博日本館で使用されたファサードを大林組が購入し、ウーマンズ パビリオンのファサードにリユースしました。そのため、ファサード制作に係るCO2排出はゼロ。さらに、鉄骨やコンクリートにおける低炭素型素材の活用、基礎鉄骨のリース材の活用といった対策を効果的に行うことで、通常の建設資材を使用した場合と比較し、パビリオン建設全体のCO2排出量を約50%削減しました。


ドバイ万博日本館のファサードをレイアウトを変えてウーマンズ パビリオンにリユース
- BIMデータも活用しファサードを組み立て
- 6,000を超えるファサード材の組み換えを行うため、どの位置でどの部材を使うかを管理することが重要でした。そこで、大林組開発のプロジェクト管理システム「プロミエ」を活用しました。システムに各部材の施工工区や位置などを入力。各部材にはQRコードを貼り付けナンバリング。QRコードとシステム内の情報をリンクさせ、見える化することで、作業の効率化を図りました。

- ヘラルボニーと協働しサイトウェアを制作
- 大林組はウーマンズ パビリオンや大阪・関西万博のテーマである、他者への共感を育み多様な文化や考え方を尊重することを表明するために、知的障害のあるアーティストが描く作品をモチーフに社会へ提案するクリエイティブカンパニー「ヘラルボニー」と協働し、工事事務所職員用のサイトウェアを制作しました。


サイトウェアに採用した八重樫氏の作品
『無題(家)』

採用したアートの作家
八重樫季良氏

発注者 | リシュモン ジャパン合同会社 |
---|---|
設計監理 | 有限会社永山祐子建築設計 オーヴ・アラップ・アンド・パートナーズ・ジャパン・リミテッド |
施工 | 株式会社大林組 |
パナソニックグループパビリオン 『ノモの国』
子どもたちの感性を刺激し、想像する力を「Unlock」する体験型パビリオン。行動・表情解析や空間演出などのパナソニックグループの技術を活用した展示体験を通じて、子どもたちが「自分の可能性を信じて、一歩を踏み出す心」を育めるきっかけを提供します。

提供:パナソニック ホールディングス株式会社
撮影:表恒匡
- 使用済み家電のリサイクル
- 使用済みの家電製品から回収した鉄・ガラス・銅などを再生した建材や、パナソニックグループの工場から排出される端材・廃材を活用した建材などを採用しています。

提供:パナソニック ホールディングス株式会社

自重や風などの影響でファサードの各部位にかかる力や変形を解析
- 循環を表現したファサード
- 建築家・永山祐子氏がデザインした有機的かつ幻想的なファサードは、約1,400個のユニットを組み合わせて形成。鋼管を3次元曲げ機で加工したフレームに薄いオーガンジーを張り、風に揺らぐ軽やかで自由な建築を実現しています。大林組は、実物大サイズのモックアップによる実証実験や詳細な構造解析を行い、特殊なファサードの実現に挑みました。
- ファサード演出設備を自動制御
- パナソニック株式会社エレクトリックワークス社の街演出クラウド「YOI-en」と、大林組が開発したスマートビルプラットフォーム「WELCS place」が連携し、ファサード演出設備を自動制御します。温湿度、雨量、風速などリアルタイムのデータをWELCS placeが収集し、基準値に応じた信号をYOI-enに発することで環境に合わせたミスト噴霧制御を実行。パビリオンの外観を彩る「光と音とミスト」の演出を最適な状態に保ち、日中の暑さ対策にも役立てます。

発注者 | パナソニック ホールディングス株式会社 |
---|---|
設計監理 | 株式会社大林組 有限会社永山祐子建築設計 株式会社構造計画研究所 オーヴ・アラップ・アンド・パートナーズ・ ジャパン・リミテッド |
施工 | 株式会社大林組 |
走行中ワイヤレス給電
- 万博会場での大規模なEVバス実証実験を実施中
- 大林組は、関西電力、大阪市高速電気軌道、ダイヘンの3社とコンソーシアムを組成し、大阪・関西万博の未来社会ショーケース事業における「来場者移動 EVバス事業」に協賛しています。EVバスが走行しながらワイヤレス給電を行うには、送電コイルの上面を被覆する材料が非磁性であることと、通行車両の荷重に耐えられる耐久性が必要です。また、給電効率を高めるために、道路表面のごく浅い位置に送電コイルを埋設することが求められます。これらの課題を解決しながら、送電コイルの埋設工事を担いました。
これらの課題を解決するために、送電コイルの埋設部を舗装と一体化したプレキャストコイルユニットの構造について、コイル下側は鉄筋コンクリートとし、コイルに付帯する設備を納めた金属箱類等を堅牢に保守しました。コイル下面から表層部までは一般のセメント系材料より高い耐久性を有する高性能セメント複合材料「ユニバーサルクリート」の内、走行中ワイヤレス給電事業を視野に新たに開発した低炭素型の「ユニバーサルクリートGX」を適用しました。これによりCO2排出量の削減にも貢献しています。また、ユニバーサルクリートは有機繊維を用いて耐久性を高めていますが、有機繊維は非磁性のため給電効率を低下させないという特徴もあります。こうして舗装厚さはわずか約25mmで通行車両の重量に耐えることができ、給電効率にも貢献する構造としました。

画像制作:関西電力・Osaka Metro

プレキャストコイル
ユニット埋設状況

プレキャスト
埋設完了時
大阪・関西万博における送電コイル埋設工事は、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の助成事業を活用しています。
シグネチャーパビリオン 『Better Co-Being』
妹島和世氏と西沢立衛氏による建築家ユニット・SANAAが設計。周囲を森にかこまれた空間の中で「静けさの森」と溶け合うように佇む建築には、既存の概念であるところの天井や壁がありません。高さ11mに、4層からなるシルバーのグリッド状のキャノピーが敷地を覆い、地上部にはそれを支える細い柱のみが配置されています。緻密に設計された柱と接合部により、キャノピーがまるで雲のように浮かびます。この建築には風雨を遮断する機能はなく、Better Co-Beingパビリオンの理念を体現。
また、アートを軸とした体験を行う舞台装置としての役割を果たしています。

大林組はパビリオン建設だけでなく、パビリオンを中心に万博会場全体で活用できるアプリケーション「Better Co-Being」の開発を行いました。この取り組みを万博レガシーとして実際のまちへ展開することにより、新たなまちづくりにもチャレンジしています。

発注者 | 公益社団法人2025年日本国際博覧会協会 |
---|---|
総合プロデューサー | 宮田裕章(慶応義塾大学医学部 医療政策・管理学教室 教授) |
建築デザイン | SANAA(妹島和世・西沢立衛) |
施工 | 株式会社大林組 |
PASONA NATUREVERSE 『オペルミ』
- オペルミとは
- 天井全面に無影灯と同等の照明機能を持たせた先進的な手術室です。従来の大きな円盤型の無影灯は必要なく、無影灯の熱による術者への負荷を軽減し、手術室内の気流を改善することで感染リスクの低減が期待できます。オペルミは、高出力・高演色の自動シューティングライトと、フルカラーLEDの導光板パネル照明を用途や広さに合わせて自由に組み合わせて設置できます。天井吊式の医療機器と干渉しないため、ロボット手術室や救急初療室で用いられるアンギオCTにも最適です。
将来的には、災害地やへき地での緊急手術に対応する移動型手術室での活用も検討しています。

- PASONA NATUREVERSE
- iPS細胞による再生医療の第一人者である大阪大学名誉教授・澤芳樹氏がプロデュースした、株式会社パソナグループのパビリオン。展示の一つ「未来の医療 ~リモート操作による空飛ぶ手術室~」において、大林組は同氏と共同研究・開発した、無影灯を必要としない天井照明型手術室「オペルミ」を展示協賛しています。


オペルミによる調色機能
- 大阪けいさつ病院へ第一号機を導入
- 2025年1月より、社会医療法人大阪国際メディカル&サイエンスセンター大阪けいさつ病院(所在地:大阪府大阪市天王寺区、理事長:澤芳樹)において、手術室にオペルミを導入し、実際の手術で使用を開始しました。主に心臓血管外科において心臓の手術に使用されており、
オペルミを使用している医師からは、その優れた照度について高い評価をいただいています。
挑んだのは、
先進技術の適用。
- ここは、未来社会の実験場。
私たちも会場建設で未来につながる
「つくり方」にトライしました。 - 大阪・関西万博の開催地である夢洲は、大都市に近接する広大なグリーンフィールドであり、道路やエネルギーなどの都市基盤が新たな理念に基づいて計画・導入される特別な場所です。国の「スーパーシティ型国家戦略特別区域」に選定されていることから、さまざまな規制緩和が適用される道も拓かれています。そうしたことを背景に、世界が注目する持続可能な都市の実現をめざし、最先端のソリューションの実装・実証が行われています。その第一歩が、まさに万博会場の建設工事でした。私たちは、現場を「都市」、作業員を「市民」に見立て、多様なデジタル技術を投入し、現場管理の効率化、作業員の利便性の向上を図りました。会場の完成はゴールではなく、むしろ未来へのプロローグです。ここで得られた知見や経験を、都市課題の解決や市民のQOL(Quality of life)向上に寄与するスマートな都市の実現へとつなげていきます。

大林組
大阪本店 夢洲開発推進本部 担任副本部長
門重 学
- 建設DXを加速する
技術の
数々を投入 - 大規模かつ大量の人・モノが日々動く現場にて、時代の最先端をゆく技術を建設向けにカスタマイズして投入。従来の「つくり方」を大きく変える建設DXに挑みました。
-
- 工事車両管理システム
「FUTRAL(フュートラル)」 - 1日1,000台規模の車両が入退場する万博の建設現場。
大林組は自社開発の「FUTRAL」を万博会場工事向けにより進展させ、巨大現場に出入りする車両を一元管理し、周辺での混雑発生を予防。
- 工事車両管理システム
-
- 顔認証入退場システム
- 万博建設現場の作業員は、ピーク時で1日5,000人以上。そこで、現場に入退場する全てのゲートに世界最高水準の顔認証システムを導入し、高度なセキュリティと作業員人数の即時把握を実現。
-
- 建設AI気象予報
- 大阪ガスと協働し、AIを活用した気象予測技術を建設現場向けにカスタマイズ。万博会場エリアの気象傾向を学習させることで、予測精度を向上させるとともに、建設作業に重要な気象アラートをスマホなどに素早く通知。
-
- 進捗管理アプリ「プロミエ」
- BIMモデルを活用し、躯体工事などの進捗をリアルタイムで管理可能なWEBアプリを大林組が開発。大屋根リング建設では、木材の製造から現場での搬入・取付まで一連の進捗を一元的に管理。
-
- 自動飛行ドローンによる点群取得
- 広大な現場の状況を、自動飛行ドローンにより把握。撮影した画像や映像だけでなく、即座に3次元の点群データを生成して共有し、遠隔地からでも最新の状況を確認しながら進捗把握や寸法計測が可能。
-
- デジタルツインシステム
- 自動飛行ドローンで取得した点群データに3次元設計したBIMモデルなどを重ね、建設現場のデジタルツインを構築。作業員や建設機械などの配置を3D上で融合することで安全で合理的な施工計画が可能。
万博から、
未来へ。